少しばかり昔の記事がTLに… - デヴィッド・ボウイの愛読書100冊

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David Bowie

懐かしい記事がTwitterのタイムラインに流れてきて、思わず目がとまった。それは、イギリス版「GQ」のアカウントだった。タイトルは、デヴィッド・ボウイの愛読書100冊。このような文章で始まる。

今週、デビッド・ボウイが死んだ、69歳だった、ニューヨークの自宅で。

そう、この記事が書かれたのは2016年の1月13日。デヴィッド・ボウイは、周囲の誰もが認める読書家だった。おそらく、記事を書いたライターが追悼の代わりに、彼の愛読書を紹介したのだろう。そのリストから、日本で読めるものや、日本に縁ある本を何冊かピックアップしてみる。

 

トルーマン・カポーティ「冷血」

小説「冷血」はノンフィクション・ノベルというジャンルを生み出した。村上春樹も「アンダーグラウンド」でノンフィクション・ノベルに挑戦していたが、そのうち「冷血」の村上春樹訳も出るのだろうか。2005年に「冷血」を書き上げるまでの過程を描いた映画「カポーティ」が制作された。役者としての顔ももっていたボウイ。「戦場のメリークリスマス」「ラビリンス」「バスキア」「ハンガー」などの映画に出演していた。残念ながら映画「冷血」にはボウイの名前はクレジットされていない。

ジョージ・オーウェル1984

2009年に、ハヤカワepi文庫から新訳版が発行されている。タイトル表記は漢数字だ。「1984年」はディストピア小説の代表として、その名前がよく挙がる。デヴィッド・ボウイが1974年にリリースしたアルバム『Diamond Dogs』には、その名もずばり「1984」というタイトルの曲が収録されている。『Diamond Dogs』は「1984」の世界観をモチーフに制作されたアルバムだった。

 

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ジャック・ケルアックオン・ザ・ロード

ジャック・ケルアックビートニクを代表する作家だ。「オン・ザ・ロード」は作者自身をモデルにした主人公が放浪する物語。ある年代のアーティストたちに多くの影響を与えてきた。ボウイもそのひとりなんだろう。不思議なのは、同じくビートニクを代表するウィリアム・バロウズが、この100冊に入っていないことだ。何度も確かめた。バロウズが多用する「カットアップ」を、ボウイも歌詞などにつかっていた。不思議だ。

 

ピーター ギュラルニック「スウィート・ソウル・ミュージック―リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢」

このノンフィクション本はソウル・ミュージック好きの必読書といわれている。タイトルは、おそらく、アーサー・コンリーの楽曲からとられたのだろう。デヴィッド・ボウイが1975年にリリースした『ヤング・アメリカンズ』はソウル・ミュージックに影響されたアルバムだ。この『ヤング・アメリカンズ』ツアーの様子を録音した『David Live』では、バックメンバーとしても参加したデビッド・サンボーンの演奏が光っている。

 

 

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R.D.レイン「引き裂かれた自己」

「引き裂かれた自己」のサブタイトルは「分裂病分裂病質の実存的研究」。R.D.レインは医学者だが、「引き裂かれた自己」はフィクションでもノンフィクションでもない、かといって学術書ともいえない。とても不可思議な読み物だ。R.D.レインといえば、みすず書房というイメージだが、昨年に「引き裂かれた自己」の文庫本がちくま学芸文庫から発売されている。ボウイがR.D.レインの著作からこの本を選んだのは意外だった。詩的な香りが強い「結ぼれ」「好き?好き?大好き?」の方が好みかと。ボウイの好奇心の幅広さをうかがわせるセレクトだ。

 

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アントニイ・バージェス時計じかけのオレンジ

時計じかけのオレンジ」は「1984年」と同じく、ディストピア小説の代表格だろう。1971年には、スタンリー・キューブリック監督が映画化している。デヴィッド・ボウイグラムロックの金字塔ともいえるアルバム『Ziggy Stardust』をリリースしたのが1972年。おそらく、映画「時計じかけのオレンジ」の影響が少なからずあったように感じる。

 

コリン・ウイルソンアウトサイダー

アウトサイダー」はコリン・ウイルソンが24歳のときに発表した評論集だ。以前、集英社文庫から刊行されていたが、すでに絶版。どこかメジャーな出版社から新訳で復刊とかしてくれないかな。この本は、すでに古い考えとされていた実存主義をバックボーンにしている。デヴィッド・ボウイは1995年に『1.OUTSIDE』(邦題は『アウトサイド』)をリリースした。ひさしぶりのコンセプトアルバムだった。タイトルなどにコリン・ウイルソンの影響があると考えるのは勘ぐり過ぎだろうか。

 

ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」

ロリータ・コンプレックスという言葉の元にもなった小説「ロリータ」。ウラジーミル・ナボコフという作家は短い文章量では決して説明できない。「ロリータ」は1962年、スタンリー・キューブリック監督によって映画化されている。「時計じかけのオレンジ」もリストに挙げていたボウイ。たぶん、スタンリー・キューブリックが好きだったんだろう。デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」がリリースされたのは1969年。映画「2001年宇宙の旅」が発表されたのは1968年だった。「2001年宇宙の旅」のタイトルは「2001:A Space Odyssey」だ。

 

 

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三島由紀夫「午後の曳航」

三島由紀夫は海外でも人気を集めている作家だ。「午後の曳航」は1976年に、舞台をイギリスに変えて映画化されている。ボウイがこの作品を選んだのは意外だった。日本の読者なら、別の小説を挙げる人が多いような気がする。「金閣寺」「潮騒」「仮面の告白」、そして「豊饒の海」シリーズあたりか。このあたりの異国情緒に対しての感情は、日本人には少しわかりにくいかもしれない。

 

 

Tadanori Yokoo「Tadanori Yokoo」


横尾忠則を紹介した海外向けの本。Amazonなどに同タイトルの書籍が出ているが、同じものなのかはわからない。ボウイと日本の縁は身近なものだった。「ジギー・スターダスト」時代の衣装を手がけていたのは山本寛斎、アルバム『Heroes』のジャケット写真を撮影したのは鋤田正義だった。以前、横尾忠則はボウイの回顧展「DAVID BOWIE is」開催に合わせて、『ボウイ展にみた「死後の人生の計画」』を出していた。


まだまだ、リストは続いている。日本語に翻訳されていない書籍も数多く入っている。

どうして、このタイミングでイギリス版「GQ」がつぶやいたのか、詳しいことはわからない。使い捨てされるような記事が右から左へ流れていくのが当たり前の毎日で、このような過去を掘り返していくのは発信側のポリシーが伝わってきて、とても気持ちがいい。というか、情報が捨てられすぎ。もう少しどうにかならないの?そう感じてしまう。本当の意味で、良い内容の記事には新しいも古いもないのだから。

かつて、音楽と文学は、いまよりもずっと仲が良かった。音楽と文学の垣根は薄く、お互いに刺激を送りあっていた。デヴィッド・ボウイが選んだ100冊の大半を読んだことがない。来年の1月には彼のいない世界が4年目をむかえようとしている。年末年始は、リストにある未読の本を、せめて1冊ぐらい読んでみようかな、と。

 


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